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それは、今のお兄ちゃんしか知らない人が見たら
きっとびっくりするほど
お兄ちゃんが優しくなかったときのおはなし

18 手首

「だから、僕に構うなって言ってるんだよ!」
ばしっと、花束が地面にたたきつけられる
繊細な花びらはちぎれて、ひらひらと遅れて舞い落ちる
「・・・・・・」
「・・・余計なことをするな
気を使われるのは嫌いだ」
捨て台詞のようにそう吐いて、
空色の髪をひるがえして彼は向こうへ行ってしまった
「・・・はぁ」
地面に落ちた花を拾い上げる
「・・・無駄になっちゃったね
ごめんなさい」
摘んでしまったお花さんに謝る
ごめんなさい、喜んでもらえると思ったの
「・・・やっぱり、しんじてもらえてないのかなぁ」
・・・そりゃ、ぜんぜん疑いもなくあの人に言ったわけじゃないよ
わたし、あなたの妹なんです なんて
何の疑いもなく受け入れてもらえるなんて、そんな虫のいいこと思ってたわけじゃないよ
「・・・でも、さ」
・・・ここまで、嫌われるとも思ってなかったんだよね
「・・・うー・・・やっぱりもうちょっと仲良くなってから言ったほうがよかったのかな」
でも、それはそれで怒られそうな気がする、うん
「・・・はぁ」
・・・あの人の意思がどうであれ、
わたしは役目を果たすだけだ
だけどそのためには、そばにいなきゃいけない
いつでも、いかなるときでも、
あらゆる害からあの人を守るために
「・・・落ち込んでてもしょうがないよね」
よし、とわたしは立ち上がった
花束がダメなら、別のものを探そう
あの人の心をすこしでもほっとさせてあげられるようなものを・・・
「あれ?」
なんか、趣旨が違ってる気がするんだけどな
わたしの目的は、別にあの人と仲良くなることじゃない
・・・広く言えばそうかもしれないけど、なんかそれは主なことじゃないと言うか・・・
「・・・ま、いっか」
いいんだ、だって
あの人をほっとけないのは、事実なんだから

「・・・って、あれ?」
あたりはザワザワ風の音
さらさら流れるのは、小川だろうか
日は暮れかけて、あたりはなんかそろそろ暗くなってきていた
「・・・ここ、どこだろ」
孤児院の近くの森をわたしは歩いてたはずだ
面白いものとかないかなぁ、と
・・・で、なんでいつのまにかこんな知らないトコにいるんだろ
「・・・もしかして」
いや、考えるまでもないような気もするんだけどね
「・・・迷った?」
・・・うん、そうだ
てか、この状況ではそれ以外の思いつきなんてあるわけないし、
わざわざ面白いことを言うような余裕は今のわたしにはなかった
「・・・うそ、どうしよう」
・・・えーと
・・・こういうときって、下手に動かない方がいいんだっけ?
「・・・でも、それって探しに来てくれる人がいる場合だよね・・・」
院長先生は来てくれるかも知れない
というか、今頃心配してるだろう、うん
・・・ああ、ごめんなさい
あとは・・・
「・・・バカ」
わたしのバカ
あの人が探しにきてくれるわけないじゃんか
てか下草のこんもりと茂った、こんな昼でも視界の悪そうな森、
院長先生だって・・・
「・・・う」
・・・なんか、急にもの悲しくなってきた
なんでわたし、こんなとこでうずくまってるんだろ
手は擦り傷だらけでまともに握れもしないし、
足だって、こうやって一度すわっちゃうと立てなくなるくらいガクガクしてる
あの人だって言ったじゃん、『余計なことをするな』って
なにかしたって、嫌われるだけだし、
なにしたって・・・
「・・・ちょっと」
「うきゃぁあああっ!?」
目の前にいきなり現れた影に驚いて、
反射的にわたしは後ろにとびすさろうとして、
手首をつかまれた
「逃げるな」
「・・・え?」
恐る恐る顔を上げると、そこには・・・
「・・・おにい、ちゃん・・・?」
「・・・・・・」
逆光でよくわかんないけど、すごく不機嫌そうなオーラをまとったお兄ちゃんがこっちをにらんでた
「あ、あの・・・」
「・・・こんなところでなにをやっているんだ」
ぶすっとしたまま、わたしを立ち上がらせる
「・・・・・・」
わたしはおどろきすぎて、足の疲れも手の痛みも忘れてしまった
「・・・答えられないのか」
「・・・え、あの、え、そ、その・・・」
じっと真っ青な瞳で見つめられて、
どぎまぎと何か言おうとするんだけど、
言葉は全て意味不明の音の羅列にしかならない
「・・・・・・」
あたふたするわたしを見て、
なにかに気づいたように彼はわたしの手をひっくり返して手のひらをみる
「・・・あ・・・」
「・・・・・・」
そこには、擦り傷で真っ赤になった手がある
「・・・えっと・・・」
「・・・帰るぞ」
「え、あ・・・」
ぐいっとわたしの手首をつかむと、
彼はすたすたと歩いていく
「あ、あの、道は・・・」
「・・・・・・」
彼は無言で左手に持ったタコ糸の束みたいなのを見せる
見れば、先の方までその先端は続いている
・・・多分、森の出口まで
「・・・あ、あの・・・」
「・・・なんだ」
こちらをふりかえりもせずに、
ずんずん彼は歩いていく
「・・・その、手・・・」
「・・・・・・」
「・・・あの・・・・」
「・・・困る」
「え?」
「・・・またお前が迷子になったら、
探さなきゃいけないのは僕なんだから、困る」
「・・・・・・」
・・・それは、余計な手間をかけさせるなってことなんだけど
「・・・うん」

・・・なんだ、嫌われてたわけじゃなかったんだ

「・・・その・・・」
「? なぁに」
「・・・帰れば、エマさんが薬とか用意してくれてると思う、から・・・」
ごにょごにょと、よく聞き取れないくらい小さい声で言われたその言葉も
「・・・うん
・・・心配してくれてありがとう お兄ちゃん」
「・・・・・・」

何も答えなかったけれど、わたしの手首を握る力が
少しだけ強くなったのが
きっと、今の彼の精一杯の答えだったんだと思う

それは、今のお兄ちゃんしか知らない人が見たら
きっとびっくりするほど
お兄ちゃんが素直に優しくなかったときのおはなし

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・・・ねえ、だからこれのどこが切ないんだ

そんなフォーディア反抗期(・・・)のお話
彼はシルキーとの出会いとか色々美化して語ってますが
当時の彼はこんなんだったのですよ、と

・・・好感持ってる人をわざわざ減らして楽しいのか、俺
ちなみにエマ=院長先生です

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