15 愛しい人(IF もしフォーディアが森へ行かされなかったら

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いとしいひと

その目でわたしだけを見て
その腕でわたしだけを抱いて
その手でわたしだけを撫でて
その胸でわたしだけを想って
その足でわたしのためだけに駈けて

そうでないなら・・・

「・・・目、覚めた?」
覗き込んでくる青い瞳は、いつもの優しくて悲しい光を湛えている
「・・・お兄ちゃん・・・」
・・・もう、何日こういう生活をしているのか

春も近くなってきたあの日、
わたしは倒れた
血をいっぱい吐いて

それからずっと、ベッドに寝たきり
だって、体を動かすのも辛いから

小指一本動かしただけで
腕が引き裂けるような痛みが走る
呼吸をするだけで
針を千本飲まされているような痛みが走る

わかっていた ことだけど

わたしはもう ながくない

「・・・調子はどう?」
「・・・大丈夫だよ」
「・・・そっか」

何十回 この会話を繰り返したんだろう
もう、頭もよく働かない

だけど、わたしにはまだ
ひとつだけ やらなきゃいけないことがある

「・・・ザード・・・よんで」
「え?」
「・・・ザード」
「・・・分かった」
お兄ちゃんが出て行くとすぐに、ザードが入ってきた
多分、もともと近くにいたんだろう
「・・・どうかしたか?」
「・・・あのね、わたし・・・」
「え? なんだ、聞こえな・・・」
そう言って、ザードがかがんだ瞬間

ぶしゅ

間抜けな音をたてて、ザードの首から赤いものが吹き出した

「・・・え・・・?」
わからない、という風にわたしを見つめるザード
「・・・わたし、あなたのこと好きだった
・・・でもね、わたしがいなくなったあと・・・
・・・あなたがもともとの役目を果たさないって・・・言える?」
「・・・・・・」
「・・・は、知って、たの、か」
「当然、でしょ?
わたし、お兄ちゃんほどお人よしじゃないわ」
「・・・・・・」

ずるりと、赤い金髪は床に崩れ落ちた
最後に何か言っていたような気もするけど、
ごぽごぽという液体の音が五月蝿くて、聞こえなかった

『・・・いとしいひと』

足音が聞こえる

『その目でわたしだけを見て』

物音が聞こえたのかもしれない

『その腕でわたしだけを抱いて』

私の部屋の前で止まる

『その手でわたしだけを撫でて』

鉄の匂いに気づいたのかもしれない

『その胸でわたしだけを想って』

あの人にも、なじみの匂いだから

『その足でわたしのためだけに駈けて』

それも一瞬、すぐに血相を変えて部屋に飛び込んでくる

『そうでないなら・・・』

「シルキー、なにがあっ・・・」

――あなたを ころすわ

「・・・どうしたの? お兄ちゃん」
いつもの口調で
いつものように笑ってわたしは言う
「・・・ザー・・・ド・・・?」
蒼白になったあなたの顔は
貴方が今考えている事を必死に否定しようとしているのを良く表している
「そうよ、毎日会ってるでしょう?
忘れるわけがないじゃない」
「・・・・・・」
お兄ちゃんの目が、血に塗れたチャクラムを持ったわたしの手に吸い寄せられる
「・・・嘘、だよね」
「嘘でも夢でもないよ」
「・・・2人で僕をからかってるなら・・・」
「お兄ちゃんなら、死体とそうじゃないのの区別、つくでしょ?」
「・・・っ・・・!」
耐え切れなくなったように、お兄ちゃんが目を閉じる
「どうしたの、なにをそんなにおびえてるの?」
痛むそぶりもないように、体をしなやかに動かしてベッドから起き上がる
「・・・シルキー・・・」
「なぁに?」
ひたひたと歩いて、お兄ちゃんの前に立つ
「・・・なん、で・・・」
「お兄ちゃんは知る必要のないことだよ」
貴方の中で、いつまでもザードは『いい友達』のままでいればいい
「・・・・・・」
「どうしたの? なにがそんなに悲しいの?」
真っ白な顔で、うつろな目をしたお兄ちゃんの顔にそっと触れる
「・・・そんなこと、きく必要もないか
だって、これでお兄ちゃんは
わたしが死んだらひとりぼっちだもんね」
「・・・・・・」
「・・・かわいそうな、お兄ちゃん」
がくっと、体から力が抜ける
「シルキー!」
もうなんの力も残っていないわたしの体を、
震える腕で支えるお兄ちゃん
・・・本当に、お兄ちゃんて・・・
「・・・ひとりは、いやでしょ・・・?」
「・・・そうだね」
「・・・うん、おにいちゃんなら、そう、いうと・・・」
もう、ほんとうに、なんのちからものこってない、はずなのに
わたしのうでは、さっきとかわらないせいかくさで
チャクラムをないだ
「っ・・・!」
いたみは、いっしゅん
ざーどのときみたいに、わざとはずしたりしなかったから
いたいとおもったしゅんかんには、もうそれすらわからなくなっていたはず

ちからをうしなったおにいちゃんのからだごと、
わたしのからだがくずれおちる

「・・・・・・」
すぐに、わたしにもおわりがくる
こうしてかんがえているのさえ、ねむくてねむくて、やっとだし

・・・うん、だってね

わかってたよ
ざーどがなんであれ、もうおにいちゃんをうらぎったりできないって
わたしがしんでも、きっとおにいちゃんをたすけていきていってくれるって

でもね

わたし

わたしいがいをみて
わたしいがいをだいて
わたしいがいをなでて
わたしいがいをおもって
わたしいがいのためだけにかける
そんな
わたしいがいのためにいきる おにいちゃんは
あいせないから

だから

わたしのいとしいおにいちゃんのままで

ずっと いっしょにいたいの

ね、ずっと いっしょ・・・だよ・・・

**************

・・・わたし、やっぱりどっかおかしいのかしら?
・・・ごめんなさい すごくすらすら書けました

下の血まみれとあわせてお楽しみください
もしくは「さよなら」の笑顔フォーディアと・・・
・・・ごめんなさいごめんなさいごめんなさ(略

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